平成18年度に進めた研究によって、抗がん剤シタラビンのプロドラッグ化ならびに放射線照射によって機能を発現するケージドDNAの開発に成功した。今年度は、これら成果を応用して、放射線照射によって活性化されるケージドペプチドの構築と効率の良い放射線分解型置換基の開発を進めた。 ○放射線照射によって活性化されるケージドペプチドの開発:我々は、X線照射によって除去される置換基として、2-オキソアルキル基(oxo基)を見出している。今回、oxo基を用いた新たな機能性分子として、X線照射により酵素活性を制御する人工酵素の開発を目指し、その基礎研究としてoxo基を導入したアミノ酸の放射線反応を調べた。酵素の構成成分であるアミノ酸のうち、チロシン(Tyr)の水酸基にoxo基を導入した化合物Tyroxo、およびTyroxoを含むオリゴペプチドを合成し、その放射線反応を調べた。その結果、低酸素条件におけるX線照射により、速やかに無置換体が生成することを確認した。即ち、Tyroxoを用いることによって放射線照射により活性化されるケージドペプチドを構築できることを明らかにした。 ○効率良く除去される放射線分解型置換基の探索:今回、上述のoxo基に代わる、より感受性の高い放射線分解型置換基を探索した。oxo基の除去反応は、水の放射線分解により生成する水和電子による還元反応を経て進行することから、2-オキソアルキル基よりLUMOのエネルギーが小さく、高い電子親和性が期待されるホルミル基を導入した修飾チミジン(dfT)を設計した。DNAオリゴマーに導入し、放射線を照射した結果、効率よく分解されることを見出した。
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