私達はHGF(hepatocyte growth factor)が様々な癌の浸潤・転移能を高める宿主因子であることに基づき、癌の浸潤・転移阻止を目的としてHGFアンタゴニスト作用を有するNK4を見いだすとともに、NK4は血管新生阻害作用をも有する2機能性分子であること、NK4が複数のモデルで浸潤・転移阻害、腫瘍血管新生阻害を介した成長阻害など強い制癌作用を発揮することを明らかにした。一方、近年MeVHGFレセプターの過剰発現が悪性中皮腫の発症・進展に深く関与することが複数報告されており、本研究は悪性中皮腫に対するNK4の制癌作用を明らかにすることを目的とし、平成18年度において以下の成果を得た。 1.ヒト悪性中皮種細胞株(7種類)を用いてMeVHGFレセプターの発現を調べた結果、すべての中皮種細胞においてMetレセプターの発現が認められた。 2.悪性中皮種の培養系にHGFを添加したところ、Metレセプターのチロシンリン酸化/活性化が引き起こされるとともに、HGFは中皮種細胞の遊走、コラーゲンゲル内での浸潤を促進した。 3. 7種のヒト悪性中皮種細胞株のうち1種はHGFを自ら発現・分泌しており、HGFのオートクリン作用によるMetレセプターの活性化が認められた。 4.NK4はすべての中皮種細胞においてHGFによって誘導されるMetレセプターの活性化ならびに中皮種細胞の遊走促進を阻害し、NK4は悪性中皮種に対して制癌作用を示すことが期待された。 5.実験動物レベルでの悪性中皮種に対するNK4の制癌作用を解析すべく、マウスに移植された後に生着ならびに腫瘍の成長を示す悪性中皮種細胞を選択し、制癌作用を解析するための動物実験モデルを確立した。
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