癌抑制遺伝子FHITが慢性炎症に起因する発癌において重要な役割を担うことをin vitroで明らかにした。本助成をいただき炎症刺激下、FHITを介した癌幹細胞における発癌機構の解明と治療法の開発を目標として研究を行い以下の点を明らかにしえた。対象癌腫として悪性度の高い食道癌に焦点に絞り研究した。 まず最初に、食道発癌FHIT KOマウスモデルを作製し、炎症刺激による食道癌進展機構への感受性はFHITの有無により大きく異なること、すなわち、PGE2を介した癌細胞増殖機構がFHITにより抑制されることをin vivoで初めて示した。 次に、慢性炎症の発癌を惹起する標的細胞として食道癌幹細胞を推定している。現在までのところ、癌幹細胞マーカーについてはCD44が候補と考えられ鋭意実験を行ったが、結果その必要十分条件を満たしていなかった。従って、食道癌幹細胞に関する研究の前に癌幹細胞がすでに同定されている血液幹細胞に着目しpreliminaryに研究し興味深い結果を得た。 FHIT陽性マウスでは骨髄中DNA傷害細胞はapoptosisを来たし増殖できないが、FHIT KOマウスの骨髄では発癌刺激によりゲノム変異を蓄積し増殖(悪性化)することを明らかにした。すなわちFHITが受動的に炎症発癌刺激に対して担当細胞の対応を決定しているのではなく、その存在は幹細胞の悪性度増幅を抑制する。発癌において極めて重要な能動的な役割を担う可能性が示された(Cancer Res in press)。 従って、今後食道癌の幹細胞(様細胞)を明確に同定された時点で、血液幹細胞の結果同様に「FHIT陰性食道癌幹細胞においてはゲノム変異を伴っても無秩序に増殖しつづけること」を明らかにしたい。
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