(1)MEK-ERK-RSK系がP-gpの発現を制御していることを見出した。MEK阻害剤であるU0126、PD98059は、P-gp陽性ヒト大腸がん細胞、ヒト乳がん細胞などのP-gp発現を10分の1以下に低下させた。siRNA導入実験により、このP-gp発現低下がRSKの下流のシグナルによることを明らかにした。これとは逆に、EGFまたはbFGFによる刺激、あるいはH-Ras、Raf-1、MEK1/2、ERK1/2、RSK1/2のそれぞれのcDNA導入によるMEK-ERK-RSK系の活性化でP-gpの発現亢進が認められた。いずれの刺激下においてもMDR1 mRNAの発現レベルに変化はみられなかった。Pulse-chase法により、U0126はP-gpの分解を促進することによりが示された。U0126はP-gp陽性細胞におけるrhodamine123の細胞内蓄積を増加させ、またパクリタキセルが誘導するアポトーシスを増強した。以上より、がんにおけるMEK-ERK-RSK系の活性化がP-gpの分解を抑制し、P-gpの発現レベルの亢進に寄与しているということが示された。(2)MDR1遺伝子の新規遺伝子多型MDR1-T3587GがP-gpの機能欠損を起こすことを見出した。MDR1-T3587G導入細胞で産生される11196S-P-gpはATP結合活性を示さなかった。また11196S-P-gpは糖鎖修飾が不完全であり、細胞膜上に発現しなかった。(3)BCRP遺伝子の9種のSNPの効果について検討した。その結果、BCRP-T623C(F208S)導入細胞では、産生されるF208S-BCRPが細胞膜上に発現せず、抗がん剤耐性を示さなかった。BCRP-T1291C(F431L)導入細胞で産生されるF431L-BCRPは、トランスポーターとしての機能が低いと推定された。BCRP-C458T(T153M)導入細胞、BCRP-G1858A(D620N)導入細胞においてもSNP型BCRPの低発現が認められた。
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