(1)estrogenにより、MCF-7などのヒト乳がん細胞のP-糖タンパク質発現が低下することを見いだした。この発現抑制機構の解明のために、マイクロアレイを用いてMCF-7でestrogenにより発現が変化し、かつタンパク質の生合成.分解に関与する候補遺伝子を402個抽出した。候補遺伝子のsiRNAをMCF-7/MDRに導入することにより、これまでにsiRNA導入によってP-糖タンパク質の発現が低下する遺伝子を14個、発現が上昇する遺伝子を2個同定した。これらの中には、タンパク質分解酵素、ユビキチン関連タンパク質、リン酸化酵素、GTPase関連タンパク質などが含まれていた。 (2)種々のBCRP強制発現細胞におけるgefitinibの輸送を調べた。PC-9/BCRP、HCT-116/BCRP、KB/BCRPなど、いずれの細胞においてもBCRPの強制発現によるgefitinibの取り込みの低下と排出の促進が観察された。これらの細胞のうち、EGFRに変異を持つPC-9/BCRPのみがgefitinibに耐性となった。PC-9/BCRPでは、EGF刺激の下流のシグナル分子のリン酸化の阻害にPC-9よりも高濃度のgefitinib必要であった。しかし他の細胞株ではBCRPの強制発見はgefitinibによるシグナル分子のリン酸化の阻害にほとんど影響しなかった。以上より、BCRPはgefitinibの排出ポンプであり、gefitinibに感受性ながん細胞の耐性因子であることが示された。 (3)BCRP遺伝子の機能性SNPについて、変異型BCRPの薬物輸送と阻害剤の効果の特異性を解析した。その結果、BCRP-C421A(Q141K)ではタンパク質発見が量的に低下するが輸送基質に対する親和性に変化がないこと、BCRP-T1291C(F431L)ではSN-38などの抗がん剤に対する輸送活性が低下していることが明らかとなった。
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