テロメラーゼ阻害剤の制がん効果は標的がん細胞のテロメア短縮を介するが、最近ではテロメア短縮に依存しない新たな制がん機序の存在も示唆されている。本研究は、がん分子標的治療への応用を目指す立場から、染色体末端維持機構の修飾によって生じる細胞応答を明らかにすることを目的とし、以下の成果を得た。1.テロメラーゼ阻害剤MST-312の新たな制がん機序MST-312のがん細胞増殖抑制効果は、テロメアが短いがん細胞ほど顕著に認められた。MST-312高感受性がん細胞株では、処理後短時間のうちにテロメアにDNA損傷応答因子が集積し、また、テロメアを検出限界以下まで消失した染色体末端が頻出した。一方、ヒトがん細胞としては例外的に極めて長いテロメアを保持したがん細胞株を複数同定し、これらの細胞株もMST-312に高感受性を示すことを見出した。染色体像を観察したところ、同剤は非テロメア部位にもDNA二本鎖切断を生じさせることが明らかになった。2.がん細胞におけるテロメラーゼの新機能テロメラーゼ触媒サブユニットhTERTを過剰発現したがん細胞株を樹立し、同酵素活性の増強とテロメア伸長を確認した。このときの遺伝子発現変化をGeneChipアレイにて網羅的に解析した。対照としてテロメア伸長因子タンキラーゼ1の過剰発現株を樹立し、同様にアレイデータを取得した。siRNAによるhTERTのノックダウン系も確立した。これらをもとにテロメラーゼの新機能を反映した発現signatureを同定すべく、アレイデータの蓄積作業を進めた。3.テロメアフィンガープリントの描出昨年度に続き、ヒトがん細胞パネル39系におけるテロメア関連因子群の蛋白質発現を定量数値化し、データベースの拡充を進めた。標準的抗がん剤の感受性フィンガープリントとのコンペア解析を実施し、発現量と感受性が有意に相関する組み合わせを多数同定した。
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