研究概要 |
クロロフィル蛍光挙動による遺伝子の機能解析の可能性を探るため、まず、光工学系量比調節に関わる因子の探索を行った。光合成においては、光化学系IIと光化学系Iが協調して働くため、光環境に応じて2つの光化学系は適切な量比に調節される必要がある。これまでに、この光化学系量比調節に強光下で欠損を示す遺伝子破壊株としてpmgA破壊株とsll1961破壊株が報告されており、これらの破壊株は強光下でお互いによく似たクロロフィル蛍光挙動を示す。そこで、類似の機能に欠損のある遺伝子破壊株は類似のクロロフィル蛍光挙動を示すと仮定した。まず、pmgA破壊株とsll1961破壊株のクロロフィル蛍光挙動を測定したところ、強光培養時に、励起光の照射から約0.5秒後に現れる初期ピークが野生株よりも低く、45秒後の蛍光レベルがそれらの初期ピークよりも高いという、共通する表現型を示した。そこで、この特徴を基準に破壊株コレクションの中から蛍光挙動の類似した破壊株6種(sll1961, pmgA, ccmK2, slr1916, ctaEI, ctaCI, slr0645)を候補株として選抜した。これらの候補株の細胞の低温蛍光スペクトルを測定し、光化学系量比の指標となる光化学系I(F725)と光化学系II(F695)の蛍光強度の比を計算した。弱光に順化した各候補株は野生株と同様にF725/F695が2程度であったが、強光に順化した野生株では光化学系Iの減少に伴いF725/F695が1程度になるのに対して候補株では野生株よりも大きな値を示した。従ってこれらの候補株は、実際に強光下での光化学系量比に異常を持つことが明らかとなった。このことは、クロロフィル蛍光挙動を単純に比較する方法によって効率良く光化学系量比に異常がある変異株をスクリーニングできることを意味する。
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