研究概要 |
神経系は多数の性質の異なる神経細胞がネットワークを作ることにより情報処理を行っている。このネットワークが正しく機能するためには個々の神経細胞が正しい性質を付与される必要がある。本研究では、神経細胞種に特異的な遺伝子発現をゲノムワイドに解析することにより、神経ネットワークが作り出す化学走性やその可塑性の機構の理解に役立てることを目的とした。 さきに開発したmRNA tagging法を用いることにより、線虫C.エレガンスの特定の細胞からmRNAを選択的に抽出することができる。この方法にマイクロアレイ法を組み合わせることにより、形態的には左右対称であるが機能的には非対称性が示唆されている左右のASE細胞のそれぞれに特異的に発現する遺伝子の候補をリストアップした。この中には機能未知の新規遺伝子に加え、膜貫通型グアニル酸シクラーゼ(gcy)およびニューロペプチド(nlp,flp,ins)が複数含まれた。そのいくつかについてレポーターを作製し実際の発現部位を観察したところ、実際に左のASE(ASEL)または右のASE(ASER)いずれかに偏って発現しているものを見出した。 このようなマイクロアレイ解析から得られる特異的発現を示す遺伝子について機能解析を行うために、RNAi法の検討を行った。線虫の神経にはRNAi法が効きにくいが、RNAiが効きやすい変異株と、経口RNAi法とヘアピンRNA発現法を組み合わせることにより、最も効率よく神経細胞における機能阻害ができることを見出した。 さらに、神経回路の動作原理の理解のため、線虫の化学走性行動の定量解析を行った。この結果、化学走性行動には2つの行動メカニズム、ピルエット機構と風見鶏機構があることが明らかとなった。コンピュータシミュレーションの結果、線虫はこの2つの機構を併用することにより効率的な化学走性行動を行っていることが明らかとなった。
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