多細胞生物体が構築されるためには受精卵がプログラム通りの細胞分裂、細胞分化、形態形成等を行なう必要があるが、プログラムを構成する遺伝子ネットワークは複雑なため、単純な遺伝子破壊法による解析だけでは発生プログラムの理解はむずかしい。温度感受性変異株は、多細胞体の構築という複雑な生命現象における遺伝子ネットワークの解明に取り組む良い方法論となる。そこで当研究課題は、線虫の温度感受性胚発生変異株を網羅的に取得し、この温度感受性変異株ライブラリーのデータベースを構築することを目的としている。 本研究では、平成19年度末までに温度感受性変異株ライブラリーの中の約60株(39遺伝子)の原因遺伝子がクローニングされた。この中には、これまで欠損変異株等がとられているものもあったが、新規の変異株、温度感受性変異株として初めてのものが多く含まれており、この温度感受性変異株ライブラリーは有効に機能することが確認された。変異株の原因遺伝子のほとんどはヒトと高い相同性を示す分子であり、疾病や生物に共通した生命現象に関する有効な解析系を提供すると考えられた。例えば、特に、klp-18(kinesin-like protein-18)とrga-2(rho-gap)はそれぞれ微小管とアクチンを制御する分子であり、胚発生の複数の過程で働いていると考えられるため、温度感受性変異株が有効な解析手段となることが期待される。 続いて、外部の研究者がこの温度感受性変異株ライブラリーを閲覧できるように、我々は基盤ゲノム支援班の支援をうけて温度感受性変異株のデータベース(WorTS:Worm TS mutant Database)を構築し、現在そのデータベースを公開した(http://worts.biken.osaka-u.ac.jp)。このデータベースには逆遺伝学の研究局面の線虫研究者がアクセスし、ある特定の遺伝子の変異株を検索することが期待される。このようなデータベースの対象者および予想される使用法を考慮して、データベースは表現型に基づいたものというよりは、遺伝子情報に立脚したものとした。
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