研究概要 |
細胞増殖に関与する細胞内反応経路EGF-Ras-MAPKシステムの再構成系等を用いて、1分子計測と数理モデル解析により、その作動原理を解明することを目標として以下の研究を行った。 1.Ras活性化制御の解析:EGFによるRasの活性化はpush-pull反応と呼ばれる協同的反応によって起こる。セミインタクト細胞に、細胞質画分、ATP, GTPを加えた再構成系で、RalGDSのRas結合ドメインとGFPの融合蛋白質(GFP-RalGDSRBD)を用いてRasの活性化を検出する実験系を作成した。再構成系によってEGF入力に対するRasの活性化量の平衡状態とそのゆらぎの詳細が計測可能になった。反面、現在の再構成系は反応開始点の制御が困難なため遷移状態の解析には向いていない。そこでEGF受容体或いはRasの活性化を認識するGFP-Grb2およびYFP-Raf1を安定発現する細胞を作成した。今後、生細胞でもEGFR, Rasの活性化の時間変化を計測する。 2.MAPKカスケードの協同性の解析:EGF濃度とERKの核移行を示した細胞の割合の関係を求め、K_M=0.56nM, Hill係数=34という過剰応答性反応であることを明らかにした。K_MはEGFとEGFRの解離平衡定数に近い。Hill係数は、EGFによる細胞内カルシウム応答(Hill係数3.9)に比べてかなり大きな値であり、Rasの下流で働くMAPKカスケードも2桁以上のHill係数を持っていることを示唆している。EGF-ERKの応答関数を生細胞で計測するため、GFP-ERKを安定発現する細胞を作成した。 3.EAPKカスケードの大腸菌内再構成:MAPKカスケードの過剰応答性を詳細に解析するため、MEK, ERKの活性化反応を大腸菌内に再構成している。ERK活性を計測するための蛍光プローブ遺伝子を設計し、制作中である。
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