細胞増殖に関与する細胞内反応経路EGF-Ras-MAPKシステムの再構成系等を用いて、1分子計測と数理モデル解析により、その作動原理を解明することを目標として以下の研究を行った。 EGF-Ras-MAPKシステムの応答解析:再構成系でEGFR/Grb2およびRas/RalGDS間の情報伝達反応ゆらぎを計測し、後者の時定数がより大きいことを明らかにした。この結果はシステムの過剰応答性に、MAPKカスケードとEGF-Rasシステム両者が寄与することを示唆する。生細胞における最大反応時間の細胞間ゆらぎ計測から、0.3-3nMに大きな傾きを持つ過剰応答性の存在が示唆された。反応経路の上流(Shc)・中流(Raf)と下流(ERK)は異なる閾値を持っており、過剰ノイズを下流に伝えにくくなっていると考えられる。また、反応持続時間の細胞間ゆらぎは中流が下流に比べて大きく、不活性化反応ゆらぎも下流に伝わりにくくなっていることが示唆された。 構成要素の改変によるシステムの応答特性変化の解析:EGFRのチロシン1068をフェニルアラニン置換し、再構成系でGrb2との認識反応解析をおこなった結果、野生型では見られる結合反応の多状態性は、局所的な結合部位の差異ではなく、全体的な分子構造に基づいていること、解離反応の多状態性は、EGFRとGrb2の衝突頻度に依存していることなどが明らかになった。また、Raf1の分子内相互作用(S621A)および14-3-3との相互作用部位(C168S)の変異体を作製し、1分子計測によって変異体分子の構造が実際に野生型と異なることを示した。MAPKシステムの大腸菌内再構成のため、恒常的活性化型MEK、MKP3およびERKを発現制御可能なプロモータ下流ヘクローニングした。また、反応を解析するためのシミュレータを構築した。
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