研究概要 |
細胞間同調の再構成を達成するためには、同調因子を任意の位相特異的に発現させる技術が必要になる。そこで本年度は、哺乳類概日時計に観られる様々な位相での転写出力がどの様に設計されているのか、その設計原理を明らかにし、任意の位相で機能する人工プロモーターを論理的に細胞内に再構成する系の確立を目指した。 まずVP16タンパクの転写活性化ドメインやGal4タンパクのDNA結合ドメインを利用した人工転写制御因子(活性化因子、抑制因子)と、それらが結合する人工プロモーターを持つルシフェラーゼ発光レポーターからなる転写回路を設計し、その転写回路を哺乳類培養細胞中に一過性に導入することにより、転写出力のダイナミクスを定量的に測定可能な系を構築した。これら人工転写制御因子を同一細胞内で様々な位相で発現させた時の下流の人工プロモーターからの転写出力ダイナミクスを計測した。インシリコでのシミュレーションとインセルロにおける検証から、(1) 朝に発現する転写活性化因子と夜に発現する転写抑制因子が、標的プロモーターからの昼の転写出力を再現するのに必要かつ十分な条件であること、(2) 昼に発現する転写活性化因子と朝に発現する抑制因子が、夜の転写出力を再現するための必要十分条件であること、(3) 朝、昼、夜の3つの基本位相の転写制御因子を単純に組み合わせるだけで、明け方、午後、夕方、深夜などの様々な位相の転写出力が生まれること、が判った。この結果は、in vivoで観察される時計関連遺伝子の一見連続的な転写出力の創出機構の理解を助け、予測した位相で機能する人工プロモーターを論理的に再構成する設計原理を明らかにした。この成果は国際誌に掲載された(Nature Cell Biology, 10, 1154-63(2008))。この設計・構築技術により、任意の位相で同調因子を発現させるための基盤技術が確立された。
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