本研究は多細胞生物を多細胞生物たらしめている細胞間相互作用機構をシステムとして理解することを目的とする。そのために我々は動的で複雑な細胞間相互作用の一つである哺乳類の概日時計における細胞間同調をモデル系とし、インシリコ・インビボにおいて細胞間相互作用の遺伝子ネットワークを設計・再構成することで、予測されうる同調メカニズムの再構成的証明を行う。 同調機能の無い培養細胞に同調機構を再構成するためには、概日時計に対して位相変位を誘導可能なペプチドリガンド(同調因子)、受容体、シグナル伝達系の3者が揃う事が必要である。本年度はまず、化合物ライブラリーを細胞に添加し、各化合物が細胞の概日振動の位相に与える影響を解析することによって、培養細胞において概日時計の同調シグナルとして機能可能なシグナル経路を複数見出した。次にこれらの同調シグナル経路を活性化可能な受容体を培養細胞に強制発現させ、対応するペプチドリガンドを外部から投与し、細胞の位相を同期させることに成功した。上記検討ではペプチドリガンドを外部から添加したが、実際に細胞間同調の再構成を達成するためには、細胞自身が分泌したペプチドリガンドによって位相変化が誘導されなくてはならない。そこで細胞自身が分泌したペプチドリガンドによっても位相変化が誘導される事を検証するために、受容体遺伝子とともにドキシサイクリン依存的に発現誘導されるペプチドリガンド発現遺伝子を導入し、任意のタイミングで培養液中にドキシサイクリンを穏やかに添加した。その結果、ドキシサイクリン濃度依存的に細胞自身が分泌したペプチドリガンドにより、受容体とそのシグナル伝達経路を活性化し、細胞の位相を変化させることに成功した。このようにして細胞は細胞間同調を達成していると考えている。
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