本研究課題では、ヒトに固有に備わる形質(ヒト固有形質)の発現分子機構を解明するための重要な手がかりを得るために、ヒト固有形質に密接に関連すると推定されるヒト固有遺伝情報の同定を目指している。この目的のために、平成18年度において、ヒト、チンパンジー、マカクザルのゲノム配列を比較解析し、ヒトとチンパンジーが分かれた後にヒトゲノムに生じたヒト固有遺伝情報を同定し、それらのヒト固有形質対応候補領域の有無をヒト集団と類人猿集団において実験的に確認することを行っている。ヒトにおいては、自分のDNAを用い、また、チンパンジーについては、京都大学霊長類研究所で飼育されているメス1個体から採取された末梢血8mlを譲り受け、その全血中に存在する細胞から核ゲノムDNAを抽出して用いた。解析開始当初は、ヒト固有領域のPCRによる実験的確認が困難を極めたが、その原因が、用いていたチンパンジーゲノム配列データに多くの誤りが含まれていたことにあることが研究途中で明らかになった。平成18年末までにチンパンジーとマカクザルの概要配列データが更新されたため、それらのデータとヒトゲノムの完成配列データを用いて比較解析をやり直し、ヒト固有領域の同定を行ったところ、以前の結果と大きく異なり、また、ヒト固有領域を実験的に確認が可能になった。平成18年度末までにおよそ10個の遺伝子において確認を終えている。ヒト固有領域以外に、ヒト系統において他の近縁系統と有意に異なっている進化速度を示す領域の同定も行った。その結果、UGT2Bなど多くの機能的に興味深い遺伝子にそのような領域が見出された。今後は、ヒト固有領域の確認をより多くの遺伝子で行い、進化速度に特徴がある遺伝子や、遺伝子構造にヒト固有の変化が生じている遺伝子などを検出し、実験によって集団中での固定状態を確認するとともに、機能的特徴を明らかにしていく。
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