研究概要 |
本研究では、胚発生、とりわけ神経系と感覚器の発生に重要な役割を果たしているグループBのSox遺伝子ファミリーに注目して、(1)遺伝子の重複・倍加にともない個々の遺伝子に生じた発現調節とタンパク質機能の多様化、(2)動物種の多様化の過程で保存されている発現調節機構と種特異的な調節機構、(3)発現調節の多様化と発生様式の違いとの関連、について、ゼブラフィッシュ・ニワトリ・マウスを用いて動物間での比較を行い、脊椎動物における系統発生のゲノム基盤を探る。本年度は、グループB1 Soxの遺伝子機能について、各パラログの個性とパラログ間における機能補完を解析するために、ゼブラフィッシュ胚においてモーフォリノオリゴヌクレオチド(MO)による遺伝子活性のノックダウンを体系的に実施した。初期胚で働くSox2,3,19a,19bについて、一遺伝子ずつをノックダウンした場合は、ほとんど胚発生に影響を与えなかったが、4遺伝子を同時にノックダウンすると、中枢神経系の形成を初めとして胚発生に著しい異常が見られた。この発生異常は、いずれかのmRNAを同時に導入することでかなり軽減されることから、各遺伝子の分子機能に大きな違いはなく、各遺伝子の個性は主に発現パターンの違いに由来すると考えられる。発現調節機構に関しては、ニワトリSox2遺伝子の周辺約200kbのDNA領域に拡げて発現制御配列の探索を行い、中枢神経系、感覚器の原基で活性をしめすエンハンサーを数多く同定することに成功した。したがって、Sox2遺伝子の制御に関わるエンハンサーは、保存配列が高頻度に見出される領域に多くが存在するが、その外側の領域にもまばらではあるが広く分布していることが分かった。
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