研究概要 |
コムギは倍数化により進化してきたことを特徴とする。パンコムギは倍数化する際、異種間の異なるゲノムを組み合わせた(異質倍数性:ゲノム式AABBDD)。これらのゲノムが内包する遺伝子セットは基本的に同じであると考えられるが、互いに分化している。倍数種のゲノム構成および遺伝子発現調節はそれぞれのゲノムの単なる足し算ではなく、高次な制御機構による相互作用が働いているに違いない。本研究は、パンコムギをモデルとして、倍数種が成立した結果生じたジェネティックおよびエピジェネティックな変化をゲノム科学的に解析することを目的とする。 本年度の成果は以下のとおり。 1.コムギESTの大量解析:これまでに決定した628,226シークエンスを整列化し、89,658個のcontig、35,604個の遺伝子クラスター(同祖遺伝子を同一クラスターとする)を得た。これらのcontigを用いin silicoで遺伝子発現パターンを解析できる遺伝子発現ボディーマップを作成した。 2.花成関連遺伝子のクローニングと発現解析:花器官形成に関与するクラスE遺伝子の一つであるWLHS1について、A, B, Dゲノムに座乗する3つの同祖遺伝子(WLHS1-A, WLHS1-B, WLHS1-D)のうちWLHS1-Aは遺伝子内部に構造変異が存在するため機能のある遺伝子産物が作られないこと、WLHS1-Bはメチル化によりサイレンシングされていること、WLHS1-Dのみ機能のある遺伝子産物を作ること、を明らかにした。 3.同祖遺伝子のゲノム別発現様式のバイオインフォマティックス的解析:比較的発現量の多い5,199遺伝子contigについて、約58%の遺伝子が1ゲノムのみから発現しており、Aゲノムの遺伝子が発現が抑制される傾向にあることが明らかとなった。 4.オリゴDNAマイクロアレイを用いた塩処理に応答する遺伝子の体系的解析:全体で約32Kの遺伝子のうち、塩に応答する遺伝子は全体の約19%であった。このうち転写因子について、発現パターンを詳細に解析した。
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