研究概要 |
異質倍数体であるパンコムギの3種ゲノム上の遺伝子がどのように発現が制御されているのかを比較ゲノム科学的方法で解析することを目的とし,以下の研究を行った。(1)コムギの生活環の種々の組織,ストレス処理をした組織,都合46組織、処理からcDNAライブラリーを構築し,各クローンのEST解析を行った。合計約63万シークエンスをグルーピングし,約3万5千の遺伝子クラスターをえた。これは全遺伝子の90%以上と見積もっている。これらの遺伝子の各組織・処理での発現パターンを特徴つけた。(2)花器官形成過程にはたらく遺伝子を詳細に解析した。モデル植物に対応する遺伝子の発現パターンを明らかにすることができた。それぞれ,ジェネティック、エピジェネティックの制御システムがはたらいていることが明らかになった。(3)比較的発現量の多い遺伝子について,6倍体のパンコムギの3種ゲノムのうち,どのゲノムから発現されているかを解析し,座乗染色体を明らかにした。(4)多重遺伝子族であるパンコムギの貯蔵タンパク質遺伝子の構造と発現様式を解析した。(5)塩に応答する遺伝子をDNAマイクロアレイを用いて網羅的に解析し,発現遺伝子を特徴つけた。コムギESTはNCBIの発現遺伝子登録サイトで全生物種で第10位,植物種で第5位である。そのうち,約60%をこのプロジェクトで貢献している。このプロジェクトでは,パンコムギの標準品種であるChinese Springの単一品種を基本的に用いており,それぞれの組織で発現する遺伝子のボディマップを作成している。これらの貢献は,コムギの機能ゲノム科学に重要な貢献をしており,世界的に高く評価されている。
|