本研究課題では、ヒトと比較的近縁である霊長類サル(カニクイザル、マーモセット、キツネザル)ならびに非ほ乳類のMHC領域のゲノム配列を決定すること、得られたゲノム配列と既知のゲノム配列情報を含めて、比較ゲノム解析に必要な情報を抽出することにより、現在のヒトのMHC領域に至るまでの進化形成の過程を明確にすることを目的とした。本年度における成果を以下に記す。 1、ヒトの祖先と4.4億年前に種分岐し、MHC抗原の発現が確認されている最も古い有顎動物である軟骨魚類のMHC領域には、ヒトをはじめその他の生物種ではMHC領域と連鎖しないMHCクラス1抗原と結合するB2M(β2ミクログロブリン)が位置することを明らかにした。 2、MHC領域のゲノム配列が完全あるいはほぼ決定されており、かつ公的データベースに登録されているほ乳類11種の比較ゲノム地図を作成した。この地図における顕著な特徴の一つとして、オポッサムを除く10種ではMHCクラスII領域の構造はよく保存されているのに対して、MHCクラスI領域は種に特有な構造を有していた。また、ブタ、ウシ、イヌ、ネコのMHC-A/-G/-F領域には発現クラスI遺伝子は認められなかったことから、元々この領域にはクラスI遺伝子は存在せずに、後にマウス、ラットや霊長類にクラスI遺伝子が誕生したと推定された。 3、カニクイザル、マーモセットのMHC領域のBACコンティグをほぼ完成させ、現在、それぞれのゲノム配列決定を進めている。カニクイザルとアカゲザルやヒトとのMHC領域の比較から、クラスI遺伝子の数に違いがあるものの、概ねゲノム構造は保存されていた。また、アカゲザルのMHC-B/C領域は約70kbを1ユニットとした19回の縦列重複により形成されているが、マーモセットにおいても数十kbの重複ユニットが数回認められた。
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