研究概要 |
原因不明の先天奇形症候群のうち、新生突然変異による優性遺伝疾患の可能性が示唆されているものは少なくない。わたしたちはこれまでに、先天奇形症候群のひとつであるコステロ症候群が、これまで癌遺伝子としてよく知られていたHRAS遺伝子の変異によってひきおこされるシグナル伝達異常症であることを世界に先駆けて報告した(Nature Genet 37:1038-1040,2005)。癌遺伝子のgain-of-functionによってひきおこされる先天奇形症候群の同定はこれが最初である。この成果をもとに、本研究の目的は、これまで体細胞変異が数多く検出されている癌遺伝子およびそのシグナル伝達経路関連遺伝子を候補とし、先天奇形症候群の病因遺伝子を同定するための戦略について検討と実証をおこなうことにある。本年度はまず、癌遺伝子の変異データベースを対象に、これまでに知られている遺伝子機能、そのシグナル伝達系、その発現部位、発生過程における発現時期などから、先天奇形症候群の候補遺伝子を抽出・選定した。次に、新生突然変異による可能性が高い先天奇形症候群で、その発生・発達過程において過成長や特定臓器の肥大を伴うことがあるもの、腫瘍(良性・悪性)の合併が報告されているものなどを中心に、国内外の臨床遺伝専門医との共同によって検体の収集をおこなった。さらに、選定した候補遺伝子について、症例より得られた検体を対象に、順次、遺伝子変異の検索をおこなった。遺伝子変異の検索に当たっては、遺伝子の各エクソンと近傍イントロンのPCR増幅を行い、塩基配列を決定した。シークエンスにより遺伝子変異が認められなかった症例については、Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification(MLPA)法を用いて、候補遺伝子のコピー数の増減の有無を検索した。
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