研究概要 |
【目的】ヒトの内臓感覚を作る脳部位はどこで、どのように制御されるのか?われわれは、脳腸相関の機序の研究によ,り、国際的な評価を得ている。本年度は、セロトニントランスポーター遺伝子調節領域多型(5-HTTLPR)により内臓刺激による局所脳賦活様式が左右されるという仮説を検証した。 【方法】対象は成人28名である。正中肘静脈より採血し、DNAを抽出した。PCR法で5-HTTLPRを分析し、s/s(n=14)、1/1、1/s、1/extra-1(n=14)、各多型を抽出した。正中肘静脈に合成樹脂のカニューラを留置した後、直腸あるいは下行結腸にポリエチレン製バロスタットバッグを挿入した。検査開始30分前から安静臥床とし、visceral stimulatorを用いてバッグに0,20,40mmHgの圧伸展刺激を加えた。同時に、H2^<15>を右正中肘静脈に静注し、positron emission tomography(PET)を行った。得られた局所脳血流量(rCBF)の画像解析をSPM2を用いて分析した。 【結果】40mmHgの大腸伸展刺激により、s/s型の個体の左前帯状回ならびに右海馬傍回におけるrCBFの増加が有意に1アリルを持つ個体のrCBFの増加よりも大きかった(p<0.0001)。また、20mmHgの大腸伸展刺激により、s/s型の個体の左眼窩前頭皮質におけるrCBFの増加が有意に1アリルを持つ個体のrCBFの増加よりも大きかった(p<0.0001)。 【考察と結論】内臓刺激による局所脳賦活様式が5-HTTLPRにより左右されるという仮説が支持された。その局所とは、前帯状回、海馬傍回、眼窩前頭皮質であり、それぞれ、感覚刺激に伴う陰性情動・conflict monitoring、侵害刺激の記憶、回避不可能な疼痛刺激への情動成分に関与していると考えられた。
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