大脳皮質感覚野における機能カラム間の同期化及び脱同期化にGABA_A抑制系が如何に関与するかを明らかにするため、膜電位感受性色素を負荷したマウス大脳皮質スライス標本において光学的膜電位測定を行なった。第IV層に電気刺激を与えると、カラム構造が明確なバレル野では第II/III層においてカラムをわずかに越える速い水平伝播が見られ、カラム構造が不明確な島皮質ではカラム内に限局した上下両方向への緩徐な垂直伝播が認められた。次にbicuculline存在下で同様の実験を行なうと、第II/III層における水平伝播が拡大強化されるに伴い、第V/VI層の出力細胞に興奮が生じた。従って、第II/III層錐体細胞は、抑制性ニューロンを介して隣接カラムの錐体細胞に側方抑制を与えると同時に、同一カラムの第V/VI層錐体細胞に対しても抑制を与えていた可能性がある。また、第V/VI層への興奮伝播の強化が第II/III層での興奮伝播の拡大強化の結果生じたことから、第II/III層錐体細胞の活動がカラム間で同期化することにより当該カラムの第V/VI層錐体細胞が活性化された可能性が示唆される。 GABA_A受容体分子を過剰発現する、PRIP-1/2分子ダブルノックアウト(DKO)マウスのバレル野おいては、野生型に比して、皮質II/III層での水平方向の興奮伝播の範囲が限局的で、その時間経過も速かった。このことは、DKOマウスでは側方抑制が強力であることを示唆しており、実際、bicucullineの投与により、水平方向の興奮伝播の範囲は同程度或いはそれ以上にまで拡大した。
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