MAPキナーゼ/ERKは、真核生物に普遍的に存在し、細胞内シグナル伝達の様々な局面において中心的な役割を担っている。近年、Maffei(伊)らはMEK1/2の阻害剤を用いた実験から、MAPキナーゼ経路が大脳皮質視覚野の臨界期可塑性に必要であること示した。しかしながら、大脳皮質視覚野の臨界期可塑性におけるMAPキナーゼの機能は未だ不明である。本研究では、MAPキナーゼの大脳皮質視覚野の臨界期可塑性における機能をin vivoで明らかにするため、大脳皮質に優勢不能型MEK1(以下、dnMEK1)を発現するトランスジェニックマウスを作製、解析する。テトラサイクリン遺伝子発現誘導系を用い、Tetオペレーター配列の下流にHAタグつきのdnMEK1を挿入したTRE-HA-dnMEK1のトランスジェニックマウスを独立に12系統作製し、Mayford(米)らが作製した前脳特異的にtTAを発現するCaMKII-tTAマウスと交配することによりTRE-HA-dnMEK1/CaMKII-tTAの二重トランスジェニックマウス(以下、二重Tg)を作製した。平成18年度はまず抗HA抗体による免疫組織化学やin situハイブリダイゼーションによりHA-dnMEK1が嗅球、海馬、大脳皮質に発現していることを確認した。更に二重Tgに前脳にERKの活性化を引き起こすことが知られているカイニン酸を腹腔内注射し、dnMEK1の発現によりERKの活性化が抑制されていることを抗リン酸化ERK抗体によるウェスタンブロッティングにより確認した。またドキシサイクリンを4週間投与することによりHA-dnMEK1の発現が停止し、ドキシサイクリンの投与を止めてから6週間後にはHA-dnMEK1の発現が再び誘導されることをウェスタンブロッティングや免疫組織化学により明らかにした。
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