平成19年度はまず平成18年度中に発現量や発現部位から選別した系統の大脳皮質に優勢不能型MEK1を発現するトランスジェニックマウス(以下、dnMEK1 Tgマウス)を交配により増やした。次に眼優位性の変化を検出するため、光刺激により発現誘導パターンが変化することが知られている初期応答遺伝子Arcに対するin situハイブリダイゼーションを行った。まずコントロールとして、野生型のマウスで片眼摘出を7日間行つた後、摘出してない眼に光刺激したところ、光刺激した眼と同側の視覚野に置いてArc mRNAの発現量が増加した。dnMEK1 Tgマウスで同様の片眼摘出の実験を行ったところ、野生型と同じように光刺激した眼と同側の視覚野に置いてArc mRNAの発現量が増加した。この事から、MAPキナーゼ経路は、眼優位性可塑性のうち、開いた眼からの入力が増強する機構には関与しない事が示唆された。次にマウスの片眼を遮蔽してから明暗条件で一週間飼育した後、再び遮蔽した眼を開眼し光刺激する実験を行つたところ、野生型、dnMEK1 Tgマウス共に、片眼遮蔽した眼と同側の視覚野におけるArcの発現量が減少した。この事から、MAPキナーゼ経路は、閉じた眼からの入力が減弱する機構にも関与しない事が示唆された。以上のことからMAPキナーゼ経路は、Arcの発現量を指標とした眼優位性可塑性には関与しないことが示唆された。
|