ラット内臓感覚野では体性電気刺激に対して高閾値の応答が得られる。その性質を調べるため、様々な自然刺激を用いて電場電位応答およびユニット応答を調べた。1.プロポフォル麻酔下で侵害応答を調べた。プロポフォルは臨床で用いられている麻酔剤で島皮質の侵害応答を抑制しないという報告がある。昨年度クロラロース麻酔下では相動的応答が得られたのみだったが、今回持続的応答が得られた。また抑制性応答も初めて得られた。受容野は大きく口唇から四肢全てに及ぶものもあった。侵害応答が記録される範囲は末梢の電気刺激に対する誘発電位の応答中心に限られ、電気刺激に応答するユニットの一部が侵害刺激に応答した。2.クロラロース麻酔下で腕、手掌、下肢、足底、尾のタッピングおよび締め付け刺激に対する応答を得た。皮膚のみの触刺激では反応がない。下腿を切開してヒラメ筋を露出しタッピングを行うとやはり応答がある。ヒラメ筋の触刺激では応答しない。露出したヒラメ筋に押し込み刺激をすると応答する。締め付けあるいは圧迫は筋の高閾値III群機械受容器線維の最適刺激であり、当該応答への筋求心線維の関与が強く示唆される。3.心拍に同期してバースト発射するユニットが記録された。身体のA-delta入力が収敏するこの場所では、迷走神経電気刺激応答は内臓感覚入力の直接の証拠とはいえない(頸部迷走神経は内臓由来でない求心線維を含む)。自然な内臓活動を反映するユニットの存在によって内臓感覚入力が証明され、この場所が内臓感覚野であることの根拠が得られた。以上より、内臓感覚野に限局して侵害応答の得られる場所があること、および高閾値筋求心線維の投射のあることが示された。この結果はこの場所が内臓・体性を問わず伝導速度の遅い求心線維の投射を受けていることを示唆するもので、内臓感覚概念の拡張版ともいうべき身体感覚系の存在を示唆するものである。
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