研究概要 |
大脳基底核内の視床下核と淡蒼球は相互に結合し基底核の活動を調節する役割を担っているとされているが、病変時には正常時とは異なるリズム活動や同期活動を示すことから、これらの神経活動の動的な特性が機能に関係していることが示唆されている。本研究では、視床下核-淡蒼球回路の数理モデルを用い、回路活動の動的特性を明らかにすることを目的とする。 視床下核神経細胞と淡蒼球神経細胞の個々の細胞の応答特性、特に周期発火状態における同期・非同期発火活動の安定性について解析するため、各々の神経細胞モデルに対し、位相応答解析の手法(Kuramoto,2003)を適用した。視床下核神経細胞のモデル(Otsuka et al.,2004)、淡蒼球神経細胞モデル(Terman et al.,2002)に対する入力電流強度をパラメータにとり、入力強さに(周期あるいは発火率)対する安定位相差の変化に関する相図を得た。以上の解析により、 1.視床下核神経細胞:入力強度が弱い範囲(発火率が数:Hz)においてのみ、位相差0の同期状態が不安定になるが、それ以外では安定して同期状態が実現される。 2.淡蒼球神経細胞:調べた範囲の入力強度については安定して非同期状態が実現される。また、過分極入力に対しては、種々のカルシウムイオンチャネルの作用により、神経細胞の発火活動が周期的でない複雑なパターンを示すことも確認した。 の結果を得た。 以上から、各々の神経核を孤立させた条件での解析であるが、in vivoの環境で観測される発火率の範囲において、視床下核神経回路は同期活動、淡蒼球神経回路は非同期活動の傾向を示すことがわかった。また、視床下核-淡蒼球の動的モードの遷移には互いの相互作用が重要であり、正常時に観測される非同期活動には淡蒼球から視床核への投射が重要な役割を担っていることが示唆された。
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