研究代表者らは、側頭葉てんかん実験モデルとして成熟ラット海馬スライス標本における高頻度シナプス刺激誘発性同期的神経活動(AD)に注目し、その発生機構を検討してきた。これまでに、AD発生に重要な役割をもつ介在細胞群を同定し、これら介在細胞と錐体細胞が興奮性GABA伝達とグルタミン酸伝達による相互興奮回路を形成することにより同期発火を実現していることを明らかにした。 これらの成果を踏まえて、本年度は、AD発生直後から消失までの時間経過のうち、特に「リズム開始」の時間帯に着目し、この期間にどのようなメカニズムが働いてADが発生するのかを明らかにすることを目指した。テタヌス刺激直後から10秒前後の時間帯に注目したところ、錐体細胞や介在細胞の膜電位にゆっくりとした脱分極成分(slow depolarization)が発生しており、これが二つの相(early phaseとlate phase)に分けられることを発見した。すなわち、early phaseではGABA_A受容体を直接介したCl^-イオンの細胞内流入が起こり、late phaseでは細胞外K上昇依存的な細胞内Cl^-イオン蓄積が起こることが推察された。この両メカニズムによって特に錐体細胞内Cl-イオンの蓄積が維持され、GABA平衡電位が数十秒間にわたって発火閾値以上に上昇し興奮性GABA伝達が機能すると考えられた。また、slow depolarizationが現するテタヌス刺激直後の時間帯に、ある介在細胞ネットワークが、グルタミン酸入力非依存的にリズムを形成している可能性を示す結果も得られた。今後も、律動的同期発火のタイミングを制御するリズム発生源を細胞レベルならびにニューロンネットワークレベルで検討していきたい。
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