研究課題/領域番号 |
18019044
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研究機関 | 国立精神・神経センター |
研究代表者 |
湯浅 茂樹 国立精神・神経センター, 神経研究所・微細構造研究部, 部長 (70127596)
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研究分担者 |
服部 功太郎 国立精神・神経センター, 微細構造研究部, 室長 (50415569)
相馬 美歩 国立精神・神経センター, 微細構造研究部, 流動研究員 (70328756)
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キーワード | Fynチロシンキナーゼ / 恐怖条件付け / PTSD / 扁桃体 / 海馬 / プロテオミクス / 細胞内シグナル伝達 / ドーパミン神経伝達 |
研究概要 |
研究の目的 本研究ではFyn欠損マウスを情動記憶障害モデルとして、本分子の欠損によって引き起こされる細胞内情報伝達過程ならびに遺伝子発現の異常が恐怖情動記憶の消去過程に影響を及ぼすメカニズムを解析することによって、記憶消去に関わる分子神経機構を明らかにする。平成18年度は扁桃体、海馬が関与する情動記憶形成の分子メカニズムを解析するために必要なFyn関連の分子マーカーの探索、記憶形成に影響を及ぼす薬物の作用機序に関わる分子の探索を行い、細胞内情報伝達に関わる候補分子の同定に成功した。 研究方法 1.Fyn依存性チロシンリン酸化蛋白の同定 ドーパミンD2受容体阻害が恐怖情動記憶の消去を促進するという報告(Ponnusamy et al. 2005)をもとにhaloperidol投与後に脳内でチロシンリン酸化が亢進するタンパクをWestern blotにより網羅的に解析し、TOF-MASS法により蛋白質の同定を行った。 2.脳内微小領域のパンチアウト標品による脳内蛋白質リン酸化の動態解析 恐怖条件付けに関連した蛋白質リン酸化の変動に関して、微量組織を用いWestern blottingにより解析する技術を開発した。 3.記憶形成促進物質により発現が変化する遺伝子の同定 情動記憶形成に促進的に作用するphosphodiesterase (PDE)阻害剤rolipramを野生型マウスに投与後、脳内の微小領域の遺伝子の変動をcDNA microarrayにより解析した。 研究結果 1.恐怖情動記憶消去を促進するドーパミンD2受容体阻害薬によりFyn依存性にチロシンリン酸化が亢進する10個のタンパク質を同定した。これらは細胞骨格系、転写調節系、機能未同定分子のグループに分かれた。 2.恐怖条件付けに関連したチロシンリン酸化の変動を解析した結果、条件付けに伴って上記のFyn依存性リン酸化タンパクのうち2つのタンパク質のチロシンリン酸化が抑制されることが明らかになった。 3.恐怖情動記憶の形成を増強する薬物であるPDE阻害剤の1つrolipramの投与により、文脈的条件付けにおいては海馬において内在性プロテアーゼ阻害剤遺伝子の1つの発現が抑制されることが明らかになった。 考察 本年度は基本的に野生型マウスを用いて情動記憶形成に関連して変動する分子の探索と、Fyn依存性にチロシンリン酸化され恐怖記憶消去との関連性がある候補分子の網羅的解析を行った。情動記憶促進と関連して抑制される内在性プロテアーゼ阻害剤遺伝子の1つはシナプス可塑性を高める作用が推測される。一方、恐怖条件付けに関連したチロシンリン酸化の抑制にはチロシン脱リン酸化酵素の活性化が関与することが推測される。平成20年度はFyn欠損マウスの情動記憶形成と消去において、われわれが独自に見出したこれらの分子の変動を手がかりに特にドーパミンD2受容体阻害薬の作用機序解明とPTSD治療の分子基盤確立を目指す。
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