本研究では、実験動物の脳・神経系において、特定神経回路の機能を同定するための新しい解析方法の開発に取り組んでいる。この目的を達成するため、大別して次の3つのサブテーマ:(1)特定回路の選択的破壊を誘発する汎用的手法(解剖・生理・分子生物学的融合手法)の開発、(2)上記新手法の適用候補となる神経回路の選定(サルを用いた実験)、(3)その神経回路の機能を調べるために適切な行動課題の選定(ラットを用いた実験)、に関して研究・開発を進めている。上記サブテーマのうち、今年度は主として(2)と(3)に進展があり、それらに関して報告する。 (2)サル生理実験:視覚弁別による眼球運動の意思決定を必要とする課題を訓練されたサルの上丘から記録されたニューロン活動を解析した。結果、行動の抑制に関する信号や手がかり刺激の曖昧さの影響などに関して新たな知見が得られ、国際専門誌、国際学会、国内招待講演などにおいて発表した。 (3)ラット行動実験:回転カゴなどラ:/トの自発的行動を誘発できると考えられている装置を用いることによって行動の定量化を行った。結果、同じコロニーから派生した遺伝的に類似の個体群(Wister系雄10匹)において、カゴ回し行動に明確な個体差が生じた(10分のセッション中、カゴがケージにあればほぼ継続的に回し続けるか、全く回さないか、カゴに閉じ込めたときのみ回すかの3タイプ)。 (2)のサル実験において見出された複雑なニューロン活動のパタンは、上丘が大脳皮質および皮質下の様々な脳領域との相互作用によって形成されていることが示唆される。今後、他の領域からの記録や局所破壊実験などと組み合わせて、特定の機能に関する神経回路の働きを限定していく必要がある。(3)のラット実験において見出された行動の個体差は、ドーパミンなど何らかの神経系の生理学的、解剖学的個体差を反映している可能性がある。現在、その神経機構を探るべく実験を継続中である。
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