ヒトやサルは視覚目標への到達運動を行うとき、通常、手と眼の協調運動により、この運動を達成している。このとき、視覚的に認知される目標点の空間的位置に関するマップは手と眼の運動生成に共通して用いられており、このような感覚運動変換機構には運動前野が重要な役割を担っていると考えられる。本研究では手の視覚空間と運動空間を乖離した条件下で到達運動を要求する課題をサルに課し、その運動前野のニューロン活動を記録・解析するとともに、著明なニューロン活動が記録された領域に皮質内微小刺激とムシモル注入による一時的機能不全を起こした場合を検討することにより、運動前野腹側部が視覚空間から運動空間への変換と運動指令生成にどのように関与するか、この領域が眼球運動と手運動の双方の制御系として機能しているかの二点を明らかにしようとした。その結果、刺激あるいはムシモル注入後、手運動のパラメーターのうち、(1)RTの延長、(2)運動方向の変化、そして(3)到達目標に至るまでのMTにおける最大速度の減少と最大速度に達するまでの時間の延長などが認められた。この変化はムシモル注入後により著明であった。一方、眼球運動に関連する活動は手運動関連活動の多く存在している部位にはほとんど存在していないこと、また皮質内微小刺激とムシモルの微小注入時に眼球運動に変化がなかった。これらの結果は、運動前野腹側部が、運動開始前の座標変換系として特に手の運動指令生成に機能していること、また、運動遂行中の手運動のパラメーター制御に主要な役割を果たしていることを明らかにしたと考えられる。
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