右か左かの選択を迫られた時、外的な手がかりがなしにいずれかの選択をする。このような場面での選択に関わる神経機構を明らかにするのが本研究の目的である。予め眼球運動方向を指示するODR課題と、反応時に眼球運動方向を自由に選択できるS-ODR課題を用い、同一ニューロンから記録される活動を両課題で比較し、S-ODR課題での運動方向決定にODR課題でどのような活動をするニューロンが関わるのかを検討してきた。今年度は、S-ODR課題の遅延期間活動の詳細な検討により、眼球運動方向の決定に直接関わる神経メカニズムを検討した。特に、S-ODR課題の遅延期開始直後に運動方向とは無関係に観察される一過性の活動増強に注目した。この活動増強はS-ODR課題でのみ観察されること、最大応答方向を選択する場合にはさらに増強されるが、それ以外の場合には自発活動レベルに戻ることから、遅延期開始直後の活動増強が眼球運動方向の決定過程に関わっていることが示唆される。そこで、ODR、S-ODR課題の1試行ごとにSpike density functionを作成し、最初に顕著な活動増大が見られる時点を遅延期間活動の開始時点と定義し、その分布や、その時点でそろえたニューロン活動を各条件で比較した。その結果、S-ODR課題の遅延期開始直後には、様々な選択肢(眼球運動方向)を表象するニューロンに活動の増加が同時にかつ一過性に生じる。同時にそれらのニューロン間に競合が生じ、その結果競合に勝ったニューロンの活動がその後の時間経過とともに増強されると同時に、同じ選択性をもつ他のニューロンが動員され、ニューロン集団として表象する情報(眼球運動方向)が確定する、という仮説を支持する結果が得られた。
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