注目すべき小さな対象物(target)の周辺に無視すべき邪魔者(distracter)が存在すると、targetの検出能力が落ちる(crowding)。この知覚現象の脳内メカニズムを探るため、本研究ではドットの運動方向を弁別する課題を用いてdistracterがtarget弁別に及ぼす影響を調べた。本年度は、運動方向弁別課題を用いた実験系をヒトで確立することに成功した。被験者は偏心度10度において、中心円(3度)内のドットが上下どちらに動いているかを答え、周囲の円(3、4.5、6、9、12度)内に存在するランダムノイズを無視するよう指示された。すると、ランダムノイズの提示領域が4.5、6度の場合、ランダムノイズがない場合に比べて弁別閾値は高くなったが、ランダムノイズの提示領域が6度を超える(9、12度)と、6度の場合に比べて弁別同値が逆に低下した。この結果は、無視すべきノイズの量を増やしていくと、ある時点からはcrowdingを解消するメカニズムが働くことを示している。ノイズの呈示領域を大きくすると成績が良くなるという現象(anti-crowding)を説明する方法は少なくとも2つある。1つはノイズの呈示領域が大きくなると、動きの検出感度が良くなるというもの、もう1つはノイズの呈示領域が大きくなると、動きの検出領域が小さくなる、すなわち注意の解像度が良くなるというものである。追加実験からは、両方がanti-crowdingに貢献していることがわかった。
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