昨年度、運動方向弁別課題を用いてヒトでcrowding(小さい対象物(target)の検出を行なう際、その周辺に妨害刺激(distracter)があると、distracterによってtargetの検出能力が阻害される現象)を測定した。その結果、distracterを増やしていくと、あるところまではtarget検出能力が下がるが、さらにdistracterを増やすと、逆にtarget検出能力が上昇すること(anti-crowding)を発見した。この現象は、ニューロンの受容野がdistracter呈示によって縮小するという計算論的モデルで説明できる。 今年度は、大脳皮質MT野ニューロンの受容野を定量的にマッピングする手法を用い、受容野内にノイズを呈示した際、どのように受容野のサイズが変化するかを検証した。サルが注視課題を行っている間、5x5のグリッド上に1ヵ所ずつ小さいrandom-dotstereogram(RDS)を呈示し、反応を測定した。そして、形成された受容野マップをガウス関数でフィットし、ガウス関数の幅(σ)を計算することにより受容野サイズを推定した。76個のMT野ニューロンから単一神経細胞外記録をし、受容野マッピングを行った。グリッドの中心にノイズを呈示し、その量を増やしていくと、受容野の大きさは徐々に縮小した。ノイズ呈示領域が0.8・1.6・3.2・6.4σの場合、受容野の大きさはRDSのみで測定した時の64・56・55・49%の大きさであった。このことは、ノイズを呈示するとMT野ニューロンの受容野が小さくなることを示しており、ヒトのanti-crowdingの結果から提唱された計算論的モデルと合致する。
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