大脳基底核の入力部である線条体には多くを占めるGABA作動性投射ニューロンの他に、少数ではあるがパルブアルブミン(PV)陽性GABA作動性などの介在ニューロンが存在する。この介在ニューロンの役割を調べるため、本実験を行った。 サルに上肢を使った遅延期間付きの到達運動課題を訓練しておく。訓練が完成後、一次運動野上肢領域(MI)、補足運動野上肢領域(SMA)を電気生理学的に同定し、刺激電極を設置する。回復後、薬物注入と記録が同時に行える電極を線条体に刺入し、主に投射ニューロンから記録を行ったところ以下のような結論を得た。 (1)線条体投射ニューロンは、MI刺激にのみ順向性に応答するもの、SMA刺激にのみ順向性に応答するもの、その両者に応答するものに分類された。このうちMI刺激に応答したニューロンは、課題遂行中の運動そのものに反応したのに対し、SMA刺激に応答したニューロンは、運動ばかりでなく手懸かり刺激や遅延期間などにも反応するものが多かった。MI刺激、SMA刺激両者に応答するものは、MI刺激にのみ応答するもの、SMA刺激にのみ応答するものの中間の反応を示す傾向があった。また、多くのニューロンは、ターゲットの方向によって、どれかに強く反応を示す方向選択性があった。(2)記録している投射ニューロンの局所にgabazine (GABA_A受容体の拮抗薬)を微量注入したところ、自発発射はあまり増加しないのに対し、皮質刺激に対する応答は増加した。それに伴って、課題遂行時の応答も増加すると同時に、課題のどのようなイベントに応答するのか、また方向選択性などの反応特異性は減少した。更に、NBQX(AMPA/kainate受容体の拮抗薬)とCPP(NMDA受容体の拮抗薬)の混合液を局所注入しグルタミン酸入力を遮断すると、皮質刺激に対する応答や課題遂行時の応答が消失した。(3)少数ではあるが、皮質刺激に対して短潜時でバースト状に反応するニューロンが記録でき、PV陽性GABA作動性ニューロンではないかと考えられた。このようなニューロンは、各イベントに持続的に反応する傾向があった。 以上の結果から、(1)線条体投射ニューロンの応答は主に皮質からの入力によって決まる、(2)線条体介在ニューロンとくにPV陽性GABA作動性ニューロンが、線条体投射ニューロンの活動を精密に調整しており、PV陽性GABA作動性ニューロンが投射ニューロンの発火のタイミングをfeed-forward制御しているという仮説を支持する、ことが明らかとなった。
|