私たちは大脳皮質の局所神経回路構成・結合パターンを調べることを目標にしており、今年度は大脳基底核に投射すると考えられる錐体細胞サブタイプの形態的・生理的特徴とそれらの間のシナプス結合様式を調べた。同側橋核、対側線条体へ異なる蛍光トレーサーを注入して逆行性標識法により、二種類のサブタイプ、CPn細胞(corticopontine cell)と両側線条体に軸索を出すCCS細胞(crossed cortcicostriatal cell)を同定した。その結果、以下のことがわかった。(1)CCS細胞とCPn細胞は全く異なる錐体細胞グループであり、形態や発火様式が異なっていた。(2)CCS細胞からCCS細胞やCPn細胞への結合は、約10%のペアーで見られたのに対して、CPn細胞からCCS細胞への結合はほとんど見られなかった。(3)シナプス前細胞の軸索と後細胞樹状突起とのコンタクト数と、EPSCの変動係数は逆相関していた。(4)EPSCの大きさはコンタクト部位とは独立で、コンタクト数に依存していた。(5)コンタクト部位は、CCS/CCS結合では主に基底樹状突起であったのに対して、CCS/CPn結合では尖端樹状突起にもみられた。(6)二細胞間のシナプス結合可能性を見積もるために、軸索と樹状突起の近接点を求めた。シナプス結合がみられないペアーでも近接点があり、結合があった場合は、そのうち約2割がコンタクトしていた。(7)尖端樹状突起への近接点は、CCS/CCS結合、CCS/CPn結合の両方で見られたのに対して、その中でのコンタクト頻度はCCS/CPn結合で大きかった。(8)結合しているCCS細胞では、タフト、基底樹状突起形態に相同性がみられた。以上から、同じ5層にある皮質下構造へ投射する細胞は複雑に機能分化しているが、それらの間には固有の結合選択性があると考えられた。
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