扁桃核は、多種多様な感覚情報を受けていて、扁桃核が損傷されたヒトでは、顔の表情から相手の情動が認識できなくなるだけではなく、声から相手の情動を認識することも障害されることが知られている。扁桃核が情動情報をどのように処理し、再現し、どのように行動に結び付けているのかを理解するためには、異種感覚情報をどのように処理しているのかを解明する必要がある。 今回実験に用いた情動刺激は、1秒のビデオクリップである。3頭のサル(被写体)の3種類の情動表出(スレット、クー、スクリーム)からなる9種類の情動刺激と2種類のヒト刺激、2種類の物刺激からなる合計13種類の刺激セットを用いた。サルが注視点を注視しているときにこれらの刺激をランダムに提示し、各々の刺激に対するニューロンの応答性を解析した。オリジナルのビデオ刺激に対して強く応答したニューロンに関して、刺激の視覚要素(映像)のみ、聴覚要素(音声)のみを提示し、どの要素が扁桃核ニューロンに重要な情報かを検討した。調べることのできた79個の扁桃核ニューロンのうち、61個(77%)が視覚要素に強く応答し、聴覚要素には応答しなかった。サル扁桃核の大多数のニューロンが、おもに視覚要素に応答を示したと考えられる。一方で、およそ20%(16個)のニューロンは、視覚要素にも聴覚要素にもよく応答した。またこれらのニューロンは、刺激選択性(どの刺激に強く応答するかという性質)が、視覚要素に対するものと聴覚要素に対するもので、非常によく一致していた。また、こうした視覚要素と聴覚要素のいずれにも応答を示すニューロンは、扁桃核のなかでも視床下部など情動行動を直接引き起こす脳部位へと情報を送っている中心核に集まっていた。これらの扁桃核ニューロンは、視覚手がかりに対しても聴覚手がかりに対しても素早く適切な情動行動を起すことに有用であると考えられる。
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