研究課題
本年度は、まず海馬錐体細胞において逆行性伝播された活動電位がDSIを担っているのか否かを明らかにすることを目的とした。逆伝播される活動電位の振幅は、種々のKチャネル活性の程度に反比例して小さくなることが知られている。そこで、これらのチャネル活性を薬理学的手法により直接、あるいは活性を調節している細胞内シグナル伝達を介して間接的に調節することにより、DSIにどのような変化が生じるか調べた。2-4週齢のマウスより海馬スライス標本を作製し、イオン透過型グルタミン酸受容体のアンタゴニスト存在下で、CA1野ニューロンからホールセル記録を行った。抑制性シナプス後電流(IPSC)はボルテージクランプ・モードで経時的に記録し、DSI誘発の条件刺激としての活動電位は、一時的にカレントクランプ・モードに変更し軸索へ頻回電気刺激を加えて発生させた(ハイブリッド・クランプ法)。活動電位の逆伝播を促進させることが知られている薬物であるホルボール・エステル、あるいは4-APを還流液に投与すると、DSIが促進される傾向が見られた。また、逆伝播を抑制する働きを持つソマトスタチンを投与すると、DSIも起こりにくくなる傾向が見られた。さらに、逆伝播の調節に関与すると考えられるGタンパク、Gq・G11の両分子が欠損したミュータントマウスでは、カナビノイド受容体の機能には変化が見られないにもかかわらず、DSIは起こらなかった。以上の結果は、海馬CA1野のニューロンでは活動電位の逆伝播がDSIの引き金となっており、細胞内シグナル伝達を介して樹状突起の興奮性が調節されることにより、DSIの発現部位・大きさ・長さ等がダイナミックに変化することを示唆している。
すべて 2006
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Molecular and Cellular Biology 26
ページ: 5888-5894