第一に、ガン化したSCNプロジェニター細胞(SCN2.2細胞)の基本的な性質を調べるために、その細胞周期を詳細に解析したところ、約24時間の細胞分裂周期が存在することが明らかとなった。また、この細胞周期は、哺乳動物の体温の変動範囲内(35.5-38℃)において安定である(温度補償性がある)ことも明らかとなった。なお、こうした性質は、コントロールとして用いたHeLa細胞では観察されなかった。これらの結果は、未分化の体内時計プロジェニター細胞の性質を理解する上で重要であると思われる。一方で、電気生理学的な解析により、未分化のSCN2.2細胞では、電位感受性チャネル発現はほとんど認められず、よってニューロンとしての機能が乏しいことが明らかとなった。そこで、ニューロン分化に最適な誘導剤の探索を行なつた。その結果、ジブチリルcAMPとグルココルチコイドを組み合わせた分化誘導処理により、細胞分裂の停止と200μmを超える神経突起形成が可能となった。この分化SCN細胞をカルシウムイメージング実験により解析したところ、高カリウム刺激やグルタミン酸刺激による細胞内Ca^<2+>増加応答が観察された。つまり、実際の成熟したSCNニューロンと同様に、電位依存性Ca^<2+>チャネルやグルタミン酸受容体が発現していることも確認された。これらの研究成果に加え、本研究期間には、この人工SCNニューロンのサーカディアンリズム出力形成の関係を明らかにするために、FRETセンサー(YC3.6)遺伝子を導入した安定発現株の作成もおこなった。
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