NR2B-NMDA受容体の活性化を必要とするシナプス可塑性が眼優位可塑性に関与する可能性を、ラットを用いて検討した。片眼遮蔽の効果は視覚誘発電位により評価した。ウレタン麻酔下のラットにサイン波状格子模様の明暗を1秒に1回逆転する視覚刺激を与え、それにより誘発される細胞外電位を遮蔽眼対側視覚野の両眼視領域から記録した。眼優位可塑性が最も強い生後25日から6日間片眼(右目)遮蔽し、生後31日に遮蔽眼の対側(左)の視覚野から記録すると、遮蔽眼刺激により誘発される電位は減少し、非遮蔽眼刺激による反応は増大する。眼優位性を対側眼誘発電位の同側眼誘発電位に対する比で評価すると、その値は顕著に減少し、対側眼優位から同側眼優位に変化することが分かる。片眼遮蔽の間、オスモティク・ミニポンプを用いてNR2B-NMDA受容体の特異的阻害薬Ro 256981を視覚野に持続注入しても、コントロールの片眼遮蔽と全く同様な眼優位性のシフトが起こった。しかし、単に片眼遮蔽を行った場合と異なり、片眼遮蔽の効果は持続せず、片眼遮蔽を終えてから次第に正常な対側眼優位の眼優位性に戻った。片眼遮蔽後、ラットを正常視覚環境で飼育しても、暗室で飼育しても、対側眼誘発電位の同側眼誘発電位に対する比は、3日でかなり大きくなり、1ケ月では片眼遮蔽なしの正常動物と同じ値になった。しかし、その戻り方は飼育環境により異なっていた。正常視覚環境で飼育すると、増大した非遮蔽眼反応はほとんど変化せずに、減弱した遮蔽眼反応が増大するのに対して、暗室飼育すると、減弱した遮蔽眼反応はほとんど変化せずに、増大した非遮蔽眼反応が減弱した。この結果は、片眼遮蔽の結果生じたシナプスの可塑的変化を片眼遮蔽終了後も維持するためには、NR2B-NMDA受容体が片眼遮蔽の間、視覚入力により活性化される必要があることを示唆している。
|