発達期マウスの大脳皮質一次視覚野スライス標本上の近接する2個の2/3層興奮性錐体細胞からホールセル記録を行い、一方の錐体細胞に活動電位を発生させると、他方の細胞に抑制性シナプス後電流(IPSC)が誘発されることを見出した。電気生理学的および免疫組織学的手法による解析の結果、2/3層錐体細胞の軸索は、抑制性細胞の軸索終末に興奮性シナプスを作り、その終末を直接活性化し、GABAを放出させる新しい抑制性回路が、大脳皮質に存在することが示唆された。 さらに、ラット一次視覚野スライス標本を用いて、2/3層錐体細胞間にみられるIPSCとEPSCの発達と視覚体験依存性について調べた。マウスと同様に、ラットにおいてもこの錐体細胞間IPSCが観察され、記録した錐体細胞ペアに興奮性シナプス後電流(EPSC)が観察される確率(22%)よりやや高い頻度で見出された(28%)。同一ペアにEPSCとIPSCの両方が観察されることは稀であった。EPSCおよびIPSCは、発達初期(生後14-17日齢)の視覚野では発達後期(生後21-25日齢)に比べて低頻度でしか観察されなかった。興奮性結合と抑制性結合の発達は共に視覚体験に依存したが、その影響の方向は逆であった。興奮性結合の形成は生後直後からの発達後期までの暗室飼育により抑制され、結合がみられたペアでもEPSCの振幅は正常視覚環境飼育に比べて小さかった。一方、錐体細胞間IPSCは、正常視覚環境飼育より、暗室飼育の方が高頻度で観察された。以上の結果は、視覚入力がない場合には2/3層において、錐体細胞間の興奮性結合の発達は抑えられ、錐体細胞間の抑制性結合の発達は促進されることを示唆している。言い換えると、視覚入力を受けると発達と共に興奮性結合が抑制性結合に比べて優位になり、視覚体験により視覚野細胞の視覚反応が強化されると考えられる。
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