研究概要 |
出生直後の幼若な脳組織では、GABA等の"抑制系シナプス"の発達が乏しい上に、細胞内塩素イオン濃度が高い為にGABAシナプスが興奮性として機能する等、神経興奮が起こりやすいと考えられており、実際ヒトにおいても例えば"熱性けいれん"のような幼児における脳の過興奮が生じやすいのは、このような背景があると思われる。そこで私たちは発達期海馬において、いわゆる"抑制系シナプス"以外の、興奮を抑えるシステムがあるのではないかと考え、大麻の内因性成分であるエンドカンナビノイドに注目した。発達期海馬においてシナプス後部でのPKAを介する長期増強があることは以前報告したが(Yasuda, et. al., 2003)、このときエンドカンナビノイドによって異シナプス性長期抑圧が見られる。これは生後0-1週海馬に強く発現しており、特に0週(生後2-5日)においては長期増強自体をマスクしてしまう。これは上記の乏しい"抑制性シナプス"の代わりに組織の過興奮を押さえる仕組みであると考える。生後一週(生後7-10日)になると長期増強はエンドカンナビノイドの抑制を受けなくなるが、これは神経終末あるいは軸索の活動によってプレシナプスにおいてPKAが活性化されて、エンドカンナビノイドから守る役割をしていることを示唆する結果を得た。このように発達期海馬においては、エンドカンナビノイドとPKAのバランスで興奮性が制御されている。もう一点は上記の異シナプス性長期抑圧は、意外なことにfiber volleyの減少を伴っていた。カンナビノイド受容体は比較的成熟した海馬ではfiber volleyの変化を起こさないと言う論文もあるが、未熟な海馬では少し事情が異なるようで、例えばMAPK阻害剤存在下では高頻度刺激のあとにfiber volleyの増大ぶ見られる(未発表)。Fiber volleyの減少はバリウムや4-APといったカリウムチャネル拮抗剤で阻害されるので、カリウムチャネルの活性化によって生じていることが示唆された。
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