研究概要 |
正常およびリーラーマウス・ホモ個体を灌流固定し、脳をパラフィン包埋して連続切片を作成し、細胞構築と髄鞘構築を調べた。その結果、リーラーマウスの上丘表層(第1-3層)の細胞成分が混じり合い、表層融合層を形成していることが明らかとなった。またこのようなリーラー上丘表層の細胞構築異常にともない、髄鞘構築も異常を呈することがMBP免疫染色により明らかとなった。正常およびリーラーマウスの眼球にコレラトキシンを注入し、網膜上丘路を順向性に標識したところ、リーラーの標識線維は上丘内で正常とは異なる経路により標的層に達することが明らかとなった。同様にリーラーの皮質上丘路線維の走行も異常であることが判明した。他方、頚髄上部にHRPを注入し、視蓋脊髄路を逆行性に標識したところ、標識ニューロンの分布に正常・リーラー間で差異を認めなかった。in situ hybridization法によりreelin mRNAの分布を調べたところ、正常マウス胎仔上丘の表層にシグナルを認めた。 今年度の研究により、リーラーマウスの上丘表層の細胞構築が異常であることが明らかとなった。この結果は、従来の報告(Frost et al., 1985)とは異なるが、リーリン欠損ラット上丘の層構築異常と同様の結果を得た(Sakakibara et al., 2003)。このような上丘表層の層構築異常に伴い、網膜や視覚野より上丘に至る視覚性入力線維の上丘内経路が異常になることが証明された。さらに正常マウス胎仔の上丘の表層にリーリンシグナルが認められたことより、リーリンは上丘表層のインサイド・アウトパターンの形成に関与すると結論された。今後、BrdUを用いたbirthday labeling法によりリーラー上丘のインサイドアウト・パターンの障害や、発生期の網膜上丘路、皮質上丘路の形成過程を検討する必要がある。
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