記憶・学習を始めとした、脳の可塑的変化に際して、遺伝子レベルの変化が生じている神経回路を検出し、さらにそれをリアルタイムに観察できる系の開発を目指した。 Arc遺伝子やZif268遺伝子は、記憶・学習など脳に可塑的な変化が生じる際に誘導されることが知られている。これらの遺伝子のプロモーターに、新たに開発した短時間半減期型の蛍光蛋白dVenusの遺伝子をつないだトランスジェニックマウスを作成し、解析を行った。 解析したいずれのトランスジェニックマウスでも、脳にdVenusの発現が見られたが、特にArc遺伝子のプロモーターを用いたトランスジェニックマウスでは、脳に強い蛍光が見られた。さらに、このマウスの眼から光刺激を行うと、大脳皮質の視覚野領域に非常に強い蛍光が誘導された。このような大脳皮質の蛍光の変化は、マウスの頭蓋骨を薄く削り、透明化することで、in vivoで且つ経時的に観察することができた。また、光刺激後の脳でdVenusの免疫組織化学を行うと、大脳皮質の一次視覚野および二次視覚野の領域で、IからIV層、およびVI層の神経細胞で、レポーターdVenusが強く誘導されていることが明らかになった。これらのことから、視覚刺激によって活性化された神経回路を検出し、さらにそれをin vivoでリアルタイムに観察する系の開発に成功したと考える。 今後、このトランスジェニックマウスを用いて、様々な脳機能と対応した神経回路を解析していく予定である。
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