脱分極自体による神経伝達物質放出増強の機序を解明するため、神経終末部が付着した状態で単離した脊髄神経細胞にパッチクランプ法を適用して解析を行った。細胞外Ca^<2+>-free条件下、高K^+溶液(30mM)により神経終末部の脱分極刺激を行うと、グリシン作動性自発性抑制性シナプス後電流(IPSC)の頻度が著明に増加した。細胞外のNa^+を除去した条件下では、高K^+溶液によりコントロールと同等のIPSC頻度の増加が見られたが、高K^+溶液を洗浄しても頻度が回復しなかった。細胞外Na^+はNa^+/Ca^<2+>交換体を介したCa^<2+>排出に重要であることから、細胞外にCa^<2+>がなくても、高K^+刺激により細胞内Ca^<2+>放出が起こっていることが示唆された。実際、膜透過性のCa^<2+>キレート剤であるBAPTA-AMにより、高K^+刺激の応答が抑制された。高K^+溶液によるIPSC頻度の増加は、PLC阻害剤であるU-73122で抑制されたが、U-73122の不活性化体であるU-73343は無効であった。PLCの基質であるPIP_2の生合成を抑制する高濃度ワートマニンによって、高K^+溶液によるIPSC頻度増加作用が抑制されたことから、本応答にPLCが関与することが明らかになった。また、海馬CA3領域より単離した神経細胞においても、高K^+溶液によりGABA作動性IPSCの頻度が増加した。 以上の結果から、高K^+による神経終末部の脱分極によって、神経終末部内のCa^<2+>貯蔵部位からCa^<2+>放出が起こること、この機序にPLCの活性化が重要であることが明らになった。今後はPLCを活性化する電位センサーの実体を解明するとともに、脱分極自体が伝達物質を増強する生理学的意義について明らかにしたいと考えている。
|