研究概要 |
シナプスを介した神経回路の改変ならびに維持が長期記憶の形成・保持に必要であると考えられている。その分子生物学的基盤として新規のタンパク質合成によるシナプスの形態変化とそれに伴う伝達効率の変化が考えられている。これまで神経細胞では全てのmRNAと蛋白質合成は細胞体に限局すると考えられてきた。しかしながら,1980年代の終わりごろから特定のタンパク質をコードするmRNAは樹状突起および軸索に輸送されて局在し,細胞体外でもタンパク質が合成されている可能性が示されるようになった。このようなmRNAの中に、CREB(cyclic AMP response element binding protein)やNFkB(nuclear factor kB)をはじめとするいくつかの転写因子のmRNAが樹状突起に同定され、局所においてそれらのタンパク質が合成されることが明らかになってきた。平成19年度は,主としてNF_KBを題材とし,樹状突起や軸索に存在するNF_KBの調節と核移行のメカニズムならびにその生理学的意義を検討した。 FRAP法によりNFkBの突起から細胞体、核への移行を解析した。KCl投与群では定常状態に比べて蛍光の回復がはやく,細胞体部分の蛍光を退色させた場合,KCl投与90分後に約50%の蛍光の回復が観察され,活動依存性の神経突起から核への輸送の存在が認められた。また,核移行シグナル(Nuclear localization signal;NLS)変異体はwild typeに比べて蛍光の回復が有意に遅れ,突起から核への輸送にNLSが重要な構造であることが示された。 次に、NLSが刺激依存性の核移行に重要なことが明らかになったため,NLSを認識する細胞質-核輸送因子であるインポーチンがNF_κBの核移行に関与しているか否かを調べた。その結果,KCl刺激によりインポーチンαならびにβが樹状突起から核へ移行することを確認した。また,インポーチンβsiRNAを発現させた神経細胞において,NF_κBの細胞体への集積が阻害される傾向が見られた。 現在,転写因子核移行の生理的役割を解明するために,インポーチンのドミナント-ネガテイブ変異体あるいはsiRNAを発現したニューロンで,BDNFのシナプス数や樹状突起棘に対する影響などを検討中である。
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