研究概要 |
我々はラット感覚運動皮質と脊髄のスライスを共培養し、皮質脊髄路をin vitroで再構築することに成功し、皮質脊髄シナプスが当初脊髄全体に形成されるが、その後腹側のシナプスがNMDA依存的、更にGluRε2(NR2B)依存的に除去されることを示した。また同様のシナプス除去がマウス培養系とラットin vivoでも生ずることを示している。 これまでシナプス活動とその発達をフィールドEPSPの変化として捉えてきたが、今回、膜電位感受性色素(Di-4-ANNEPS)を用いて膜電位の空間的分布を直接記録し、7-11 DIVにおける腹側からのシナプス除去を確認した。更に薬理実験と組合わせて、発達に伴いNMDA受容体がNR2BからNR2Aにシフトすることを示した。 また、前年度に引き続き、GluRε2(NR2B)KOマウス(東大薬理・三品教授から分与)由来と野生型由来のスライス共培養系を用い、皮質ではなく脊髄のε2受容体が必須の関与をしていることを示した。しかし、ε2KOマウスでは、そもそもNMDA受容体がすべて出現しない可能性も示唆されていたが、εI(NR2A)と考えられる受容体が少なくとも皮質脊髄シナプスには発現することをホールセル記録により示し、シナプス除去に対するε2の特異的関与を確認した。 皮質脊髄軸索を生きたまま標識してその腹側からの撤退過程をみるため、EYFP発現プラスミドを皮質スライスに遺伝子導入して、レーザー共焦点顕微鏡でライブ観察した。撤退の様式には退縮(retraction),切断(autaxotomy),変性(degeneration)の少なくとも3種類があることがわかった。退縮は約9μm/hのほぼ一定した速度で間歇的に起こること、軸索の分岐点まで退縮することが多いが、分岐点を超えることはないことが示された。変性とはEYFPが4μmほどの周期的な数珠状構造を形成し、その輝度が増減を繰り返しつつ消失していく、全過程が2-3時間の速い変化である。この特徴的な変性過程はこれまで報告されておらず、また切断を軸索撤退の過程として実時間的に捉えたのも今回の我々の観察が初めてである。
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