多種多様なモダリティの内臓情報を伝える1次求心線維は迷走神経を介して孤束複合体で脳内最初のシナプスを形成する。その局所神経回路による情報処理の分子機構を解明する第1段階として、1次・2次ニューロン間シナプス伝達の短期可塑性を脳スライス標本におけるパッチクランプ法を用いて解析した。ラットおよびマウス(一部GAD67-GFPマウス)の延髄冠状断スライスを作製し、孤束核(NTS)2次ニューロンおよび迷走神経背側運動核(DMX)ニューロンから1次求心線維刺激誘発単シナプス性興奮性シナプス後電流を記録した。Paired-pulse刺激によって短期可塑性を評価したところ、[Ca^<2+>]_o=2mMにおいて強い短期抑制を示すニューロン(NTSのすべておよびtype II DMX)と弱い短期抑制ないしは短期増強を示すニューロン(type I DMX)に大別された。NTSニューロンの強い短期抑制は[Ca^<2+>]_o低下もしくはadenosine投与によって短期増強に転じた。EPSC振幅-分散関係から高い放出確率(P>0.7)がその主因であることが示唆された。一方、type II DMXニューロンのpaired-pulse ratioは、[Ca^<2+>]_oの変化およびadenosineにほとんど影響を受けなかった。これらの結果は、同じ求心性入力のシナプスが、標的細胞に依存した異なる機構を介して短期可塑性を示す事実、そしてadenosineなどによるシナプス前抑制機構がこの短期可塑性をさらに修飾する事実(メタ可塑性)を示す。EPSC振幅および活動電位発生確率の周波数応答特性が、このpaired-pulse ratioと強い相関を示していた事実は、1次・2次ニューロン間伝達の周波数特性が標的細胞の種類に依存したシナプス前性短期可塑性機構によって規定されている可能性を明示する。
|