研究概要 |
延髄孤束複合体(dorsal vagal complex, DVC;孤束核NTSおよび迷走神経背側核DMX)の局所神経回路による内臓感覚情報処理のシナプス機構を解明することを目的として1次求心線維から2次ニューロンへの周波数伝達特性を脳スライス標本におけるパッチクランプ法を用いて解析した。Paired-pulse ratio値および頻回刺激に対するシナプス後応答の周波数特性frequency-dependency indexから、各ニューロンのシナプス応答をDMX_<high>型、DMX_<low>型、およびNTS型の3タイプに分類した。シナプス後電流の振幅-分散関係から全放出部位数、1放出部位あたりのEPSC振幅、および、放出確率を推定した結果、上記3種のシナプス応答の周波数特性の差異がシナプス前終末からの放出確率の差に起因し、DMX_<high>型シナプスにおいては低い放出確率を放出部位数の多さで「補う」ことによってNTS型シナプスと同程度のシナプス強度を得ている事実を見出した。伝達効率を犠牲にせずに周波数応答特性を確保する機構として重要である。これら3種のニューロン群にadenosineを投与し、その影響を解析した結果、NTSニューロンでは、adenosineによってpaired-pulse ratioの有意な増加が生じ、それに伴いfrequency-dependency indexが有意に増加した。一方、DMX_<low>型ニューロンにおいてはadenosine存在下もpaired-pulse ratioに有意な変化は認められなかった。以上の結果は、内因性プリンが、DVCのシナプスの伝達効率と周波数特性をシナプス伝達の特性に応じて弁別的に最適化しうる可能性を示している。
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