研究概要 |
アクチン骨格の再構築は、成長円錐の突起の伸長・退縮や伸長方向の決定に重要な役割を果たしていると考えられる。また、アクチン骨格の制御は、樹状突起スパインの形成や形態変化にも重要な役割を担っており、シナプスの可塑性を支える重要な要因の一つと考えられている。アクチン脱重合因子であるコフィリンはアクチン骨格の再構築を制御する主要な因子であり、その活性はLIMキナーゼによるリン酸化(不活性化)とSlingshotによる脱リン酸化(活性化)により制御されている。本研究では、神経突起伸長・退縮、スパインの形態変化、樹状突起形成におけるコフィリン制御系の役割を解明することを目的として実験を行い、以下の結果を得た。1)PC12細胞の突起伸長に対するコフィリンのリン酸化制御の役割を解明するため、コフィリン/ADF、LIMK1/LIMK2、SSH1/SSH2のRNAiを行った。その結果、LIMKとSlingshotによるコフィリンのリン酸化と脱リン酸化の両方が神経突起の伸長に必要であることが示された。2)トリDRGニューロンにLIMK1を過剰発現しても、RNAiによって発現抑制しても神経突起の伸長が抑制されたことから、LIMKによるコフィリンの適切なレベルのリン酸化が神経突起の伸長に重要であることが示された。3)ラット海馬神経細胞にLIMK阻害ペプチド(S3ペプチド)を添加するとスパインの面積、長さ、幅が減少したことから,LIMKによるコフィリンのリン酸化がスパインの形態形成、維持に寄与していることが示唆された。4)ラット海馬神経細胞の培養14日後にSSH1の発現を抑制すると、細胞体や樹状突起から多数の細い樹状突起が形成されたことから、Slingshotは樹状突起の形成,伸展を負に制御していることが示唆された。
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