研究課題
キノコ体は、節足動物の脳に公汎に存在する発達した神経構造であり、学習・記憶・認知などの多様な高次機能の中枢である。ショウジョウバエ成虫のキノコ体は約2500個の神経細胞から構成されるが、そのすべてが、わずか4個の特異的幹細胞の継続的分裂により生み出されることが示されており、幹細胞分裂,軸索誘導、神経総形成等の高次構造構築過程の解析にまたとない解析モデルを提供している。キノコ体の形成と機能を支える遺伝子網を包括的に理解するために、マイクロアレーによる発現遺伝子の解析を行い、1400余の発現遺伝子を同定しその機能を解析した。薬剤処理によりキノコ体を特的に欠損させた脳の遺伝子発現プロファイルの解析により、キノコ体で選択的発現を示す遺伝子を体系的に選別し、さらに、in situハイブリダイゼーションによる発現解析により、最終的に70個の遺伝子をキノコ体形成と可塑性制御因子の有力候補として選別した。これらのうち42個の遺伝子についてRNAi解析を行い、キノコ体神経構造に異常をもたらす8個の遺伝子を選別した。加えて、変異体が入手可能な遺伝子についてAMRCM法による神経モザイク解析を行ない、中でもHr46遺伝子の変異がキノコ体神経幹細胞の経時的特異性の維持に機能する結果を得た。また、成虫キノコ体発現遺伝子の解析と平行して、キノコ体の初期形成を制御する遺伝子を探索するために、これまでに総計3116個の遺伝子の胚発生期脳における発現パターンをスクリーニングし、キノコ体前駆細胞で発現する68個の遺伝子を同定してきた。これらのうち、RNAi系統が入手可能な20個の遺伝子についてキノコ体特異的なRNAi解析を行い、キノコ体神経構造に異常を誘起する遺伝子を選別した。これらの結果は、脳における高次構造構築過程を制御する分子機能の理解に重要な手がかりを与えるものと期待される。
すべて 2006
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Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 103
ページ: 14417-14422