研究課題
成体の嗅球では新しく生まれた抑制性神経細胞(顆粒細胞)が既存の神経回路に組み込まれている。我々は、マウス成体嗅球の新生顆粒細胞の生存が、細胞が生まれて特定の時期(14-28日)の匂い入力によって左右される(臨界期が存在する)ことを示してきた。生死決定の臨界期は如何にして始まり、終わるのか、また生死を左右するシグナル機構は何か、を明らかにすることを目的とし、まず分子機構を効率よく検討するためのin vitro系の作成を行った。前年度に、マウス嗅球からの2段階分散培養によって、「既存の神経回路に新しい顆粒細胞が組み込まれる」in vitro系を確立した。DsRed2標識新生細胞が既存の神経回路へ組み込まれる過程を追跡し、特定の時期の神経活動抑制によって新生細胞の生存が低下することを見出し、in vitro系で生死決定の臨界期を再現することができた。本年度は臨界期の細胞の形態を詳しく観察した。それらは多くのスパインを形成しており、in vivo嗅球と同様、既存のグルタミン酸作動性投射ニューロンとシナプス構造を作っていた。神経細胞の生存に重要なakt分子のリン酸化を検討したところ、NMDAR依存的な活動抑制によって、臨界期の新生細胞特異的にaktリン酸化が低下することが判明した。これらのことから、臨界期は新生細胞のシナプス形成時期に相当し、臨界期の始まりと終わりを規定する機構は、シナプス入力を中心としたaktのリン酸化機構をもとに理解できると考えられた。さらに、個体レベルの解析により、新生顆粒細胞の生死決定が食餌摂取の時間におこることを見出した。すなわち、嗅球新生顆粒細胞の生死決定には「新生神経細胞の分化段階に規定される臨界期」と、「動物個体の摂食行動に規定される臨界期」の、2つの臨界期が存在することが判明し、この両者の分子機構の統合的な解析が必要であると考えられた。
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Hippocampus (掲載確定)(印刷中)
Brain Structure and Function 212
ページ: 19-35
Neuroscience Letters 421
ページ: 185-190